三日月ロック / スピッツ
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J-POPを語るには欠かせないスピッツの、言わずと知れた名盤。
それでいてポップス、の一言でくくりきれない何かがある。
打ち込み、四つ打ち、もちろんスピッツ流ロックンロールも健在で、深めにかかったリバーブの声が神々しささえ感じさせる。
所謂スピッツのイメージが陽・ポジティブであるならば、このアルバムは陰・ネガティブだろう。
しかし単純に暗い混沌とした曲なわけではなく、センチメンタリズムと憂いを背負って、あくまでポップで在ろうとする複雑さがある。
それが深さと奥行きを実現させ、唯一無二のアルバムとさせる。
周知の通りバラードがピカ一で、気を抜いた瞬間にスッと入ってきて染み込む様な歌声、雰囲気がある。
デビュー以来全く失速しない耳に残るメロディラインが、記憶の中のスピッツの凄さを更新させる。
夏の日の切ない夜に車で聴きたい一枚。
月が欠けてたりしたら一瞬で虜になるはず。
Termination / 9mm Parabellum Bullet
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もう10年以上前になるだろうか。
下北沢屋根裏での出番を終えて、つまらないバンドが始まったところで地上に出た。
少し飲み過ぎていたので、落ち着くまであてもなくふらついてから帰ろうと思っていた。
シェルターの前を通った時、ライブハウスとは違う場所で鳴る新鮮な音が聞こえた。
道を挟んだディスクユニオンの自動ドアの前に警備員が2人、こちらを向いて立っていた。
その奥には人の頭がたくさんあり、さらに奥の少し高いところにアフロヘアーがあった。
たくさんの頭はもみくちゃに動いていたが、少し高いところの頭3つはその倍、左右に動き回っていた。
そこで鳴っていたのがDircommunicationだった。
インストアライブ特有のペラペラな音に乗せて、確かなカオスと規律が淡々と流れていた。
当時一定の権力を持っていたストリームであるガレージロックリバイバルとは明らかに違う速さ、歪みで鳴るオケに、客が歌っているのかと錯覚するほどか細い声。
絶対的にも相対的にも異質な音楽であった。
激しい演奏が成す疾走感とミスマッチな綺麗な声、ネガティヴな歌詞はそれをミステリアスなものにする。
自称「ライブ屋」だそうだが、なるほど。
この曲を聴いて多少なりとも体が動かない者はロック(ロックンロール)に対しての鼓膜が凝り固まっているのだろう。
少し考え直すことをお勧めする。
Ma! Ma! Ma! MANNISH BOYS!!! / MANNISH BOYS
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フォークロックシンガーである斉藤和義と、元BLANKEY JET CITYの中村達也によるユニットの、1stアルバム。
斉藤和義のカッティングに乗せて早口で音符を詰め込んでいく得意のスタイルが、中村達也の極めて即興的な、かつパワフルなドラミングと非常なマッチングを見せる。
アコースティックな曲からEDMまで、幅広く展開するものの、二人の個性が全く死なない、むしろ違った見えで輝きだす。
ここまで強い個と個がタッグを組んで成功したのは過去例をみないのではないだろうか。
個性の生み出すケミストリーは新しい音楽となって響くわけだが、しかしやはり良いことばかりではない。
斉藤和義の真骨頂は弾き語りにあるように思えてしまうし、中村達也のドラミングが最も生きるのはもっとロックンロールにアクの強い曲調やボーカルだろうと思えてしまう。
これはこれ、と割り切れば恐ろしく完成度の高い良いものであることは確かなのだが、やはり双方の真価を一度耳にしてしまっている以上、ちらついてしまうことは避けられない。
今後発表されていくであろう楽曲で、さらなる一面が見えてくることが待ち遠しい。
yamane / bloodthirsty butchers
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お世辞にも上手いとは言えない歌、奇を衒うような真似はしない楽器、どちらかと言えば淡々と進む曲調。オルタナティヴでポストロックな音楽。
こうして書き出すと、一見眠くなる要素しかないバンドだ。
普段から音楽に触れていない人にとっては、キャッチーさや体が動くようなノリもなく、退屈に感じるだろう。
その評判の高さを耳にしてから聞き出したとしても、まずその魅力に一瞬で気づくことはない。
NUMBER GIRLのような疾走感も切迫感もなければ、GRAPEVINEのような色気もない。
ただそこにあるのは、あまりにも圧倒的なセンチメンタリズムだ。
そっと置くようで時に小さく爆発するような歌唱と、指で押すだけで崩れそうな演奏、遥か遠くの方で溢れ出す原体験と欲望が、絶妙なバランスをもって成り立つ。
なにかが崩れれば極めてつまらないバンドになっていたかも知れない。
しかしこれ以上はない、と言い切れるほどの不可解な完成度でもって、ヘッドホンから脳天へ突き抜けていくのである。
PLANET MAGIC / N'夙川BOYS
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KING BROTHERS のマーヤと元メンバーのシンノスケが、女性ボーカルを迎えて結成したバンド、N'夙川BOYSのメジャー1stアルバム。
KING BROTHERSの混沌とした地中深くで鳴り響く美しい爆発はない。
ここにはあくまでポップスとして、音楽を胸を張って、しかし斜に構えて堂々とかき鳴らす3人がいる。
楽器は持ち回りで演奏し、マーヤのスクリームもここではサブの役割に留まっている。
しかしその50-60年代ロックを彷彿とさせる不安定感、輪郭の際立ちが、逆に心地よさを醸し出す。
全体に漂う浮遊感、単調なリズム、見えないコンセプトが、無条件に流してしまう音楽を生み出している。
彼らが表現したいのは、その主的活動に代表される荒々しさや厳しさ、葛藤や抑圧から解き放たれた「夢の中」かも知れない。
ねえママ あなたの言うとおり / amazarashi
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2007年に結成されたギターボーカル、キーボードのツーピースバンド、amazarashiの7thミニアルバム。
Mr.ChildrenやBUMP OF CHICKENのようなキャッチーさとメロディ、マイナーコードを多用するミステリアスさを含みながら、圧倒的に一線を画している。
その違いはなにか。
圧倒的な声と歌詞だ。
おそらくメロディをピアノで弾いたら、ありきたりな曲に聞こえてしまうものもあるだろう。
だがその普遍的で敷居の低いオケにつられて聴くと、あっという間に引き込まれる。
基本的にはファンタジックで抽象的で暗い歌詞だ。だが時にその抽象性は遠くからぐっとみぞおち辺りを鷲掴みにする。
その理由は、全てを見透かしたような、囁きが既にオールアウトでエモーショナルな、ドロドロに濁っているようで、真っ直ぐに届いてくるその声。
具体的な歌詞を書けば、それはあまりにもザクザクと心を突き刺す。しかし暴力的ではなく、むしろ何か宗教的な、無心で委ねられるような心地良ささえ感じる。
淡々としかし起伏のある歌唱は、日常に溶け込みながら、その色を乗っ取り変えていく。
極めて広い間口で構えるその楽曲からは想像もできない宗教性・中毒性がある、危ない音楽かもしれない。
3×3×3 / ゆらゆら帝国
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「サイケデリック」と、一言で言えば何も苦労はしない。
しかしここにはその袋を突き破るなにかが大量に詰め込まれている。
ガレージ、パンク、サイケデリックロックの要素を含ませながら、極めて正しいスリーピースバンドの音色でその何かははっきりとした姿で飛び出してくる。
何かを伝えようとしているのか、何を求めて表現しているのかわからないまま、全身全霊での演奏が、ボーカルが飛び出してくる。
少しバイオレンスで、グロテスクでニッチな言葉の組み合わせで綴られる歌詞は、まったく別次元のものではなく、急な速度で迫ってくる日常性もある。
そのことで距離感を見誤り、深く突き刺さるのだろう。
かつてクリープハイプが陥った「世界観とはなにか」の問いにどう向き合っているのかはわからないが、もしかしたら塵ほども眼中にないのかも知れないと思えるほど、独特の世界観を愚直に発信し続けている。