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LAGOON / 日食なつこ

彼女を初めて見たのは「水流のロック」のMVだった。

 

ピアノとドラムが向き合っただけ、数台のカメラが切り替わるだけの構図だった。

背景には軽井沢の白糸の滝があるだけ。

 

ジャズでロックなピアノを、エモーショナルに愛撫するように身体を揺らしながら叩き、少し眉間にしわを寄せながら、黒いストレートドレスに黒いストレートヘアーで、線の細い身体からは信じられないくらい確固とした哲学が、巻き舌を通して吐き出されていた。歌詞ではない哲学だ。

 

緑と黒と白のコントラストに翻弄された3分と2秒は、私の心を鷲掴むのに十分だった。

 

それからすぐに時系列順にアルバムを追った。

記念すべき1枚目であるこのLAGOONは、ピアノと声以外にはなにもない、彼女を堪能するには十分な、もしかすると最良かも知れない。

 

英語と日本語で決して揺らぐことのない哲学の塊が並べられる圧巻さは当時から顕在である。

一般的に言われるピアノの演奏技術の高さも聴きどころで、リスナーの安心感と不安感を巧みに操ってくる。

現在の最新作でもその日食なつことしての根幹を揺るがすことない進化は続いているが、デビュー時点でそのほぼ全てが確立していたことは明らかである。

この早熟の仕方は宇多田ヒカルをはじめとする所謂天才に多い。

 

 

驚くのはこのアルバムの曲のほとんどが本人が高校生のときに作られたという事実。

ライブ映像ではまだあどけなさの残る子供のような雰囲気で、ピアノと歌がまるでアテレコのように見えた。

 

それほどの才能を持つ人間に対しては、年齢を持ち出すことはむしろ失礼にあたるのかも知れない。